先日、東京都立日比谷高等学校において、「中・高等学校対抗交渉コンペティション」(第7回目)が開催されまして、審査員として参加してまいりました。
本大会は、アメリカ全土のロースクールではほぼ必修科目となりつつある「交渉学」の考え方や技能を身に付けることや、学習指導要領の「社会」や「公民」において示される「社会参画する力」や「合意形成する力」を育むことを目的にスタートした大会で、もともと約20年の長い歴史のある「大学対抗交渉コンペティション」をベースにした内容で構成されています。
交渉大会というと、勝ち負けを競うように思われるかもしれませんが、審査員が審査する項目は、「柔軟な対応ができていたか」、「相手の主張や事情を正確に理解していたか」、「双方の利益を満たす合意になっていたか」などで、「ハーバード流交渉術」等で提言されている「人と問題を切り離す」「立場ではなく利害に焦点を合わせる」「双方に有利な選択肢を考える」「客観的基準を強調する」「最善の代替案(BATNA)を用意する」「約束の仕方を工夫する」「よい伝え方を工夫する」といった「交渉の7つの指針」に沿った交渉ができているかがポイントとなります。
昨今は、論破ブームがあったり、法律や正論を持ち出せばトラブルが解決する、という大人も含めた誤解や幻想も多いと感じますが、本大会で大切にされているのは、現実的でサステナブル(持続可能)な、課題や問題への向き合い方だと心から感動しました。
ちなみに、第7回目となる今回の交渉テーマは「漁業に関する国際交渉」でした。
海を挟んで隣り合う架空の2国の漁業や貿易、海域全体の漁獲量減少問題などに関して、各参加校が2手に分かれて、交渉に挑みます。両者が共有する背景事情だけでも10ページ近い資料があり、それに加えて両者それぞれしか知らない秘密情報があり、論点も1つ2つではありません。ボリュームもさることながら、なかなかにリアルな状況設定となっており、私自身も審査のために事前配布された資料を拝見して準備をしましたが、さっと目を通しただけでは簡単に作戦を立てられないほどに、難しさのある内容でした。
それでも、参加者である中・高校生の皆さんは、しっかりと準備され、自社側の最大利益と許容範囲をしっかりと把握して、積極的に提案や検討を行い、新たに発覚した課題や問題にも柔軟にアイデアを出して対応し、作戦タイムも戦略的に活用し、惚れ惚れとするほどに健闘されていました。
今回は審査員として参加させていただきましたが、私自身が、たくさんのことを学び、大いに刺激をいただきました。他の審査員の方々も、弁護士さん、大学教授の方、法務省の方々などなど錚々たるメンバーで、なんだか恐縮してしまいましたが、対立や紛争、交渉というものに対する考え方や、さらには教育論に至るまで、前後の時間にもご意見やお話を伺うことができて本当に実り多い時間となりました。
そして、このような交渉スキル、他者との関わり方のトレーニングを積んだ学生たちが増えていったなら、もしかしたら紛争や課題に満ちたこの世界も変わっていけるかもしれない、そんな風にすら感じられる素晴らしい機会でした。これからもぜひ応援させていただきたい大会です。
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